インタビュー
2020年3月2日

ソニーが世界最大級のスポーツ用品見本市に出展した理由とは[ドイツ現地レポ] (1/3)

 ソニーは1月末にドイツ・ミュンヘンで開催された世界最大級のスポーツ・アウトドア用品展示会「ISPO Munich 2020」(以下、ISPO/イスポ)に初めて出展。同社が開発した米の籾殻を原料とする天然素材「Triporous(トリポーラス)」を展示し、欧州をはじめとする海外のスポーツ・アウトドア市場へアピールしました。

 ソニーが開発した「トリポーラス」とはどんな素材なのか。そして、なぜ今回「ISPO」に出展したのか。今後の展開を含め、展示会開催中の現地ドイツにて、トリポーラスを担当するソニーの小池允さんと山ノ井俊さんにお話を訊きました。

▲「ISPO」は1970年から開催されている世界最大級のスポーツ用品の見本市
50年目を迎えた今年は4日間で120カ国から約8万人が来場
ソニーは、会場内の一等地とも言えるホールA1の中央にブースを構えていた

ソニーが手掛ける「トリポーラス」とは?

 ソニーが手掛ける「トリポーラス」は米の籾殻を原料とする天然素材。リチウムイオン電池を研究開発している過程で誕生したこの新素材は、優れた吸着性能を持っているため、水や空気の浄化などにも効果的であるとしています。この「トリポーラス」を繊維素材に組み込み、ソニーが商標を持つ「Triporous FIBER(トリポーラス ファイバー)」として、アパレル製品が展開されています。 

▲インタビューに応じてくれたソニーの小池さん(写真左)、山ノ井さん

―― 改めて、トリポーラスの特徴を教えてください。

山ノ井:材料の特徴として、トリポーラスは大、中、小と3種類の穴を複数持った多孔質カーボン素材です。従来の活性炭は主に小さい穴しか開いていないのに対し、トリポーラスは大きな穴と、中くらいの穴を持っています。この構造により、これまで取りづらかった大きさの汚染物質(ウイルス、タンパク質、大きな匂い分子、色素など)も素早く吸着できるようになりました。また、穴に触媒や薬剤を入れることにより、新しい機能を追加することも期待できます。大きな穴の内部に中くらいの穴があり、中くらいの穴の内部に小さな穴があるという構造になっています。

―― トリポーラスが生まれたきっかけはリチウムイオン電池の研究開発にあったようですね。

山ノ井:2000年代のことですが、人工の二酸化ケイ素(シリカ)微粒子を鋳型に用いた多孔質電極材料の研究がアカデミアで行われていました。しかし、その方法で製造すると費用がとても高くなってしまいます。そこで、もっと効率的にできないかと考え、シリカを含有する植物に注目しました。さまざまな植物を調べた結果、最も多くシリカを含んでいた植物が米の籾殻でしたので、籾殻を用いた研究がスタートしました。我々が調べた限り、籾殻を食べている人はおらず、多くが廃棄されていて、この捨てられている材料を価値あるものに変えたいと当時から意気込んでおりました。

小池:籾殻は世界中で1億トン以上、廃棄されています。日本だと200万トンくらい。ですので、大多数をグローバルの供給に頼ります。生産されているのは、ある程度、決められたエリアです。

▲トリポーラスの原料になっている米の籾殻

―― メンズアパレルを扱うセレクトショップの「EDIFICE(エディフィス)」とは、2019年にニットなどを製品化しています。ISPOは、スポーツ分野です。スポーツ・アウトドア市場にどのような点に着目しているのでしょうか。

山ノ井:トリポーラスファイバーには消臭抗菌性能があるため、汗をかくシーンの多いスポーツやアウトドア業界の製品とも相性が良いと考えています。

―― トリポーラス ファイバーを使ったものは、現在はレーヨンだけでしょうか。

小池:現在はまだレーヨンしかないのですが、ほかのマテリアルに関しても開発を進めています。

山ノ井:あとは半合成繊維と言いますか、コットンやポリエステルと混合した糸や生地というのは製造しており、今回の展示会でも多数展示しています。

▲トリポーラス ファイバーを使ったアパレル製品

―― トリポーラス ファイバーとして出すとき、割合は決まっているのでしょうか。

山ノ井:トリポーラスの使用量、消臭・抗菌性能、洗濯耐性の規格を設けており、その基準を満たしたもののみが、トリポラスファイバーの商標を付けて販売できます。

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