2019年11月22日

10年ぶりの世界陸上を終えて。13秒20の間に考え、選択したこと│寺田明日香の「ママ、ときどきアスリート~for 2020~」#31

 みなさん、こんにちは! 陸上競技の寺田明日香と申します!

 いつの間にか紅葉も終わりかけ、冬の気配を感じるようになりましたね。私の出身である北海道では、ついに雪が降り、一足早く長い冬の始まりを迎えたようです。

 私はというと、最終戦を終えてから長めのオフを過ごし、来年に向けた冬季練習が少しずつ始まりました。この冬の期間のトレーニングが来シーズンの結果を大きく左右することになるので、毎日を大切に過ごしたいと思っています。

 さて今回は、久しぶりの寺田執筆記事なので、カタール・ドーハのハリーファ国際スタジアムで開催された世界陸上を経験して見えたことや反省点などを書こうと思います。

 最後まで、お付き合いのほど、よろしくお願いいたします!

久しぶりの海外レース

 10年ぶりの世界陸上出場が決まったとき、私は「レース以外の部分でも、自分がどのような反応をするのか楽しみ」といくつかのメディアの方にお話ししました。実際、ドーハに入ってからの生活は本当にひとつひとつの出来事を楽しむという感じで、リラックスしながらも冷静に、楽しく過ごせていたのではないかと思います。

 暑さは出発前から覚悟していましたが、現地に着いたとたん、体験したことのない暑さにビックリしました。でもフィールドの中では暑さをあまり感じることはありません。暑い国ならではの対策がされていました。ハリーファ国際スタジアムは、競技エリアの観客席にエアコンが設置されている場所なんです。スタジアム内外の気温差、衝撃的でした……。

 さらに、イスラムの民族衣装に身を包んだ方々に囲まれる経験、国際大会の招集所の雰囲気、英語での対応などなど……。日本のレースだけでは経験できない多くのことを今回のドーハで経験することができました。

 2019年10月5日23時ごろ(日本時間)、私は世界陸上100mハードルの予選1組目のレースに出場しました。レースの結果は、5着。タイムは13秒20。満足できる結果ではありませんでした。

 今シーズンの全レース結果をみても、あまり良いタイムではありません。なので、レース後の取材では、冷静に走れなかったのかと聞かれることもありました。でも、13秒20の間の出来事やその前のこともほとんど覚えているので、終始ほぼ冷静だったんだと思います。

 ただ、そのときに選んだ選択肢を間違ったことが今回のレースの結果に繋がった大きな要因なのです。じゃあどんな選択肢があったの? というところなので、13秒20の間に考えていたことをまとめます。

13秒20の間に感じたこと

 スタートは相変わらず遅かったので、ほかの選手の背中が見えていました。これはいつものことなので、「冷静に、大丈夫」と心のなかで自分に言いました。

 スタート〜中間は、自分が3着の位置で走っているなと理解していました。中間〜後半にかけて、左にいるジャマイカの選手が前に出てきて、右前にアメリカの選手(優勝したNia ARI選手です)がかなり前にいることを確認しつつ走り、「この順位をキープしないと」と思っていました。

 ゴールに向かうとき、私の目の前に2つの選択肢が現れました。【1】前にいる2人の選手についていきたい、【2】自分のペースを守る。私は【1】を選択しました。その瞬間、わずかに脚をハードルに擦ってしまい、「もう少し、耐えて」と、心のなかでつぶやいたこと、踏切のタイミングが遅かったと感じたことなど、今でも覚えています。

 13秒20。周りをかなり見ながら、いろいろ考えて走っていました。レース中に考えて走るようになったのは、今シーズン復帰したときからで、第一次陸上選手期にはなかったことです。今年の日本選手権までは、周りを気にして考えながら走るレースを良いものだとは思えず、なるべく気にしないように、集中するよう心がけていました。

 でも、日本選手権後からは気にしないようにしてみたんです。第一次陸上選手期と同じ集中の仕方をする必要はないなって思って。なので、日本選手権以降のレースはすべて考えながら走っています。

 世界陸上を走ってみて、12秒前半で走る選手と私(12秒97)では、そもそものスピードも違えば、ハードリングの速さも違うということが改めてわかりました。フィジカル面では私に足りないところがあるにせよ、圧倒的に劣っているとは感じませんでした。ラグビーの経験が、ここにも活きているんだなぁと感じた瞬間です。

 レースは予選で敗退してしまったので、次の日は切り替えて準決勝・決勝前の選手たちのウォーミングアップを見ていました。やっていることは、海外のトップ選手も日本の選手も実はあまり変わりありませんでしたが、ひとつの動作の完成度や基礎の徹底度はものすごく高いものでした。

 このオフシーズン、私はそのクオリティの高い動きを短い期間で習得していくことになります。目指す動きを自分の目で確認できたことは、大きな収穫になりました。この経験を胸に、2020へ向けて引き続き頑張ります。

スパイクを変えて挑んだ世陸

 今回の世界陸上、実はスパイクを変えました。なんと、気づかれた方もいたようで、最後にそのお話もしておきたいと思います。

 陸上復帰を決めたときに自分で買ったスパイクがA社のもので、実は10ヶ月間1度もピンを変えずに使っていました。プレートも柔らかくなっていたので、スパイクを新しいものにしなければならず……。

 そして、今回の世界陸上ではM社のものを使いました。A社のスパイクは、第一次陸上選手期からずっと使っていたので安心感があります。その一方で、当時の走りと今の走りは変わっていますし、より硬いプレートも使ってみたいと思いM社のものにしました。

 今後もいろいろと試し、今の自分に合った最適なアイテムを見つけていきたいと思っています。来シーズン、どんなアイテムを使うのかもひとつの楽しみです!

[プロフィール]
寺田明日香(てらだ・あすか)
1990年1月14日生まれ。北海道札幌市出身。血液型はO型。ディズニーとカリカリ梅が好き。会いたい人は、大谷翔平と星野源。小学校4年生から陸上競技を始め、小学校5・6年時ともに全国小学生陸上100mで2位。高校1年から本格的にハードルを始め、2005~2007年にはインターハイ女子100mハードルで史上初の3連覇。3年時には100m、4×100mリレーと合わせて同じく史上初となる3冠を達成。2008年、社会人1年目で初出場の日本選手権女子100mハードルで優勝。以降3連覇を果たす。2009年世界陸上ベルリン大会出場、アジア選手権では銀メダルを獲得。同年記録した13秒05は同年の世界ジュニアランク1位だった。2010年にはアジア大会で5位に入賞するが、相次ぐケガ・病気で2013年に現役を引退。翌年から早稲田大学人間科学部に入学。その後、結婚・出産を経て女性アスリートの先駆者となるべく、「ママアスリート」として、2016年夏に「7人制ラグビー」に競技転向する形で現役復帰した。同年12月の日本ラグビー協会によるトライアウトに合格。2017年1月からは日本代表練習生として活動した。2018年12月にラグビー選手としての引退と陸上競技への復帰を表明。2019年シーズンから競技会に出場し、6月に日本選手権女子100mハードルで9年ぶりの表彰台となる3位に入り、7月には100mでも自己記録を更新。8月には19年前に金沢イボンヌ氏が記録していた日本記録13秒00に並ぶと、9月1日に「富士北麓ワールドトライアル2019」で史上初めて13秒の壁を突破し、12秒97の日本新記録を樹立。カタール・ドーハで開催された「世界陸上」に出場。再び陸上競技選手として、2020年東京オリンピックを目指す。

◎所属企業:株式会社パソナグループ
◎主な記録:100mハードル日本記録保持者(12秒97)/100mハードルU20日本記録保持者(13秒05=2009年世界ジュニアランキング1位)/100mハードル日本高校歴代2位(13秒39)/100m:11秒63

【今後のスケジュール】
2019年12月7日(土)~8日(日) “日清食品カップ”第22回全国小学生クロスカントリーリレー研修大会@万博記念公園(大阪府吹田市)
2019年12月14日(土) JALスポーツ能力測定会in水戸@茨城県水戸市
2019年12月16日(月)日本陸連アスレティックス・アワード@東京都内
2020年2月1日(土) 2020日本室内陸上競技大阪大会@大阪城ホール
2020年3月1日(日) スポーツポテンシャル測定会@東京都板橋区

【関連URL】
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<Text & Photo:寺田明日香/Edit:アート・サプライ>