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2017年9月21日

「騙されたー!チャンチャン♪」で終わるはずだった!? 小林まこと先生が語る『柔道部物語』で描きたかったこと(前編)│熱血!スポーツ漫画制作秘話 #1 (1/2)

 今も昔も、スポーツ漫画は多くの少年少女を夢中にしてきました。主人公の血のにじむような努力に胸を打たれたり、チームメイトとの友情に憧れたり、試合に敗れ悔しがるシーンに涙したり……。時には読者の将来をも決定づけてしまうほど、大きな影響力を持っています。この連載では、そんなスポーツ漫画の作者にご登場いただき、名シーンが生まれた舞台裏やあのキャラクターが作られたきっかけなど、制作秘話をお訊きします。

 第1回は、『1・2の三四郎』、『What's Michael?』、『柔道部物語』など80年代より大ヒット作品を連発した漫画家・小林まこと先生。2014年に引退した先生が突如昨年より『JJM 女子柔道部物語』で復活。多数の金メダリストをはじめ、多くの柔道を愛するものに影響を与えた『柔道部物語』と最新作『JJM 女子柔道部物語』について、たっぷりお話を伺いました。

部活あるあるのつもりが長期連載に

--まず最初に、『柔道部物語』を描くに至った経緯を教えていただけますか?

当時は『What's Michael?』連載中でメチャメチャ忙しい時期だったんだけど、ヤングマガジンが創刊5周年ということで読み切りを頼まれたんです。題材も自由だったので、俺の実体験をベースに、柔道部に騙されて入部して、その1週間後にセッキョー(新入部員歓迎のシゴキのこと)されて、「あー騙された!」っていう話を考えたんです。それでネームを切り始めたら、30Pじゃ収まらない。100Pはいっちゃうんですよ。なので編集部に「悪いけどこれちょっとだけ連載にしますよ」って言って、「騙された!」の先は後で考えればいいやって、連載にしてもらったんです(笑)。

--最初の構想は小林先生の高校時代の思い出話だったということですが、連載が進むに連れて大きく物語の方向性が変わっていきます。

田舎の弱い学校での“柔道部あるある”を集めてチャンチャン♪で終わるつもりだったんだけど、いざ描き始めたら俺がやっていたときと階級も違うしルールも変わっていたから、こりゃ勉強しなきゃまずいとなって。そのうち1年くらい連載したときに、当時日体大の古賀稔彦さんからファンレターをいただいたんですよ。「あのスーパースターの古賀稔彦から手紙が来た!」って興奮しちゃってね。これは本気でやらないと、三五(十五)が日本一になるくらいの前向きな漫画にしないといけないって思いました。

▲『新装版 柔道部物語』 

西野のモデルは強すぎるあの人たち

--そうして三五が日本一へ上り詰めて行く過程で、三五をはじめ小林先生ならではの個性豊かなキャラクターが多数登場します。こういった魅力的なキャラクターはどのように作られているのでしょうか?

まあいろんなパターンがありますけど、身近な人をモデルに……っていうのがいちばん多いかな? あとは人から聞いた話から持ってくるっていうのもありますけどね。

--三五の最大のライバルで、劇中の登場人物の中でも人気が高い西野はどのように作られたんでしょう?

まず大前提として『1・2の三四郎』のときの宿題があったんです。あの作品を終えたとき、当時の編集長に「本当の敵を描かずに終わっちゃったな」って言われまして。みんな仲間になっちゃったから、やっつけなきゃいけないライバルを描けなかったんですね。なのでどこかでそれに挑戦しなきゃいけないというのは自分の中であったんですよ。そこで最初は樋口を最終的なライバルのつもりで描いていたんだけど、なんかちょっと力不足になってね(笑)。三五も強くなってきて、もっとすごいのを出さなければいけなくなったんです。

--とにかく強い主人公にふさわしいライバルを作り上げたんですね。モチーフやモデルにした人物はいましたか?

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