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2021年1月19日

肉をやめて野菜中心の食事にすべきなのか。菜食主義とアスリートの関係を描いたドキュメンタリー映画『The Game Changers』がおもしろい (1/2)

 体作りやパフォーマンス向上など目的を問わず、トレーニングを真剣に行う人なら、食事に関する情報にも敏感でしょう。いくらハードに筋トレをしたところで、傷ついた筋繊維に適切な栄養を与えないと効果は薄いと誰もが知っています。世の中には多種多様なトレーニング理論があるのと同様に、栄養学のアプローチもさまざまです。たとえば以下の理論はトレーニーの間ではよく知られた内容です。

「筋肉を作る材料になるのはたんぱく質。その中でも肉や魚や乳製品などからなる動物性たんぱく質は9種類の必須アミノ酸を含んでいるが、植物性たんぱく質には不足しているものがある。体内の吸収率も動物性たんぱく質の方が植物性たんぱく質よりはるかに高くなる。したがって、筋肉を発達させるには動物性たんぱく質の摂取が欠かせない」

 ところが、この常識に真っ向から挑んだドキュメンタリー映画があります。2019年9月にドイツで公開された、『The Game Changers(ザ・ゲームチェンジャーズ)』です。この映画が、米国のスポーツ愛好者や競技者の間で大きな話題を呼んでいます。

 同作品は2018年1月にサンダンス映画祭で発表。2019年9月に1日限定の劇場公開を経て、2019年10月に米・Netflix(ネットフリックス)で一般視聴が可能になると、一気に話題が広がりました。ネット上には“#gamechangers”や“#thegamechangersmovie”などのハッシュタグでさまざまな反響が寄せられています。なお、同作品は日本のNetflixでも『ゲームチェンジャー: スポーツ栄養学の真実』という邦題で配信中です。

『The Game Changers』はどんな映画?

菜食主義ダイエットの啓蒙映画である

 この映画は、スポーツ選手が肉食を止めて野菜中心の食事をすることでいかにパフォーマンスが上がるかという、菜食主義ダイエットの啓蒙映画です。しかし、ダイエットや健康よりスポーツ面にスポットを当てていることに大きな特徴があります。

 この映画のテーマでもあり、繰り返し強調される言葉が「Plant-based Diet(植物由来の食生活)」です。ベジタリアンとかビーガンなどと呼ばれる菜食主義とほぼ同意ですが、宗教的な信条あるいは哲学的な意義はあまり強調されません。それよりも、身体的な影響が重視されます。

 ベジタリアンやビーガンがライフスタイルそのものを指すとしたら、Plant-based Diet(植物由来の食生活)は広義のダイエット法(食生活)のひとつだと言ってよいでしょう。もちろん効果や安全性については、あらゆる方面からの賛否両論がありますが、ここではその詳しい説明や是非を論じることはしません。

肉食を重視するクロスフィットジムに大きな影響を及ぼした

 この映画は、クロスフィットのジムにも大きな驚きをもたらしました。なにしろクロスフィット創始者のグレッグ・グラスマン氏によるクロスフィットの原則は「肉、野菜、ナッツと種子類、少量の果物、わずかなデンプン質を摂り、砂糖は摂らない。食事は運動をするために必要な量だけ摂取し、体脂肪にならない程度に抑える(以下略)」とあり、トレーニングよりも肉を食べることから始まっているのです。この原則はクロスフィット指導員がライセンス講習で最初に習う言葉であり、また多くのジムの壁にポスターにされて貼られてあります。その金言が冒頭から否定されたわけですので、クロスフィッターたちにとっては今まで疑いもなく信じてきた常識を根底から覆す、まさに革命的な内容だったのです。

ナレーターを務めるのは、元総合格闘技家のジェームス・ウィルクス氏

  映画の製作者に名を連ね、ナレーター役も務めたのが、元総合格闘技家のジェームス・ウィルクス氏です。ウィルクス氏は最高峰UFCでのキャリアをもつトップ格闘家であると同時に、米軍特殊部隊のインストラクターでもある人物。怪我が原因で引退を余儀なくされた氏は、栄養学について学び始めます。

▲ジェームス・ウィルクス氏

 映画『グラディエーター』で有名な古代ローマの剣闘士たちの食事が、ほぼベジタリアンだったことを知って驚いたウィルクス氏。世界中の菜食主義をとるアスリートや科学者を訪ねてまわります。同時に自身でもPlant-based Diet(植物由来の食生活)を試し、持久力と回復力が大幅に向上したことを報告しています。ウィルクス氏の実体験と氏が行った数多くのインタビューが、この映画の骨子になりました。

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