2020年10月23日

為末大さんのかけっこメソッド。『子どもの足をすぐに速くする!』│スポーツがしたくなる今月の1冊

 いよいよ“スポーツの秋”が到来。各地では運動会が開催されるほか、小学校などでは持久走大会を控えた時期となりました。そこで今月は、子どもの運動をコンセプトとした1冊をご紹介。元陸上競技選手・為末大さんによる『子どもの足をすぐに速くする!』(出版:扶桑社)を取り上げます。かけっこ、あるいは陸上競技にとり組むお子さんなら、きっとタイトルを見ただけで飛びついてしまうのではないでしょうか。

著者は世界陸上メダリスト!

 著者である為末さんといえば、オリンピックや世界選手権などで多数の出場実績を持ち、400mハードルの日本記録保持者でもあります。

 世界陸上では2001年に銅メダルを獲得。これは、トラック種目において日本人初となる快挙でした。その後も2005年の世界陸上で銅メダルを獲得。いまやコメンテーターなどテレビをはじめとした各種メディアに多数登場しているほか、陸上競技の指導者、経営者としても活躍しています。

 本書はそんな為末さんの経験、そしてそれに基づくメソッドが凝縮されています。私も元陸上部でしたが、同世代の中ではまさにヒーローとも呼ぶべき選手でした。これだけで、「どんな内容なのだろう」を心躍らせてしまいます。

イラスト・写真が豊富で、子どもでもイメージしやすい

 本書は指導者のみならず、親御さん、あるいは子ども自身が読むことも考えられる本。そうなれば、当然ながら“わかりやすさ”が求められるでしょう。いくらすばらしいメソッドでも、小難しい内容では理解できません。

 本書の大きな特徴は、イラストや写真が多用されている点です。具体的なトレーニング内容については見開き完結となっており、まず為末さん自身をモデルとしたイラストが描かれています。このイラストが秀逸で、1つのイラストで記載内容をうまく表現しているのです。解説を読み進めれば、「なるほど! このイラストのようにやればいいのか」と理解できるでしょう。

 また、細かな動きなど文字だけでイメージしにくい部分は、写真つきで解説されています。これが、しっかり“その知識をはじめて知る人”の目線から構成されており、初見でも見よう見まねでトレーニングできるでしょう。試しに小学5年生のわが子へ「この通りにやってみて」と言ったところ、細部の動きにぎこちなさはあるものの「こうかな?」と言いながら取り組めていました。動きの方向なども矢印で補足されており、痒いところに手が届いています。

カード&DVDで理解をさらに深める

 本書にはイラストカードとDVDが付属しており、実践の場でとても役立ちます。イラストカードは、先述した為末さんをモデルにしたイラストと同じもの。何度か読み返した人なら、イラストを見るだけで「そうか、こういう動きだった」と思い返せます。練習の際に持ち運べば、正しい動きの反復に役立つのではないでしょうか。

 DVDでは、為末さんが自ら登場。その実演を見ることで、書籍に書かれている内容が具体的にイメージできます。ポータブルDVDプレイヤーがあれば、屋外でもお手本を見ながら練習することが可能。まるでコーチに習っているような感覚でトレーニングできるため、効率的に走るための技術が身につけられそうです。

 成長過程にある子どもは、ただ毎日走るだけでも、少しずつ足が速くなっていくかもしれません。しかし「他の子と差をつけたい」「もっと効率的に速くなりたい」と考えるのであれば、やはり技術が必要です。では、そのために何が必要なのか。本書はそうしたポイントを学び、身につけるうえで、ぜひ手元に置いておきたい1冊といえます。

[筆者プロフィール]
三河賢文(みかわ・まさふみ)
“走る”フリーライターとして、スポーツ分野を中心とした取材・執筆・編集を実施。自身もマラソンやトライアスロン競技に取り組むほか、学生時代の競技経験を活かし、中学校の陸上部で技術指導も担う。またトレーニングサービス『WILD MOVE』を主宰し、子ども向けの運動教室、ランナー向けのパーソナルトレーニングなども行っている。4児の子持ち。ナレッジ・リンクス(株)代表。
【HP】http://www.run-writer.com

<Text:三河賢文/Photo:Getty Images>