フィットネス
2021年1月13日

あるビジネスマンが砂漠マラソンで世界一になる軌跡を綴った『マラソン中毒者』│スポーツがしたくなる今月の1冊

 こんにちは、“走る”フリーライターの三河です! いつもスポーツライターとして、マラソンやトライアスロン等の競技を中心に、全国を駆け回っています。さまざまな関連書籍を読む機会も多いのですが、これから毎月1冊、読むと「スポーツしたい!」と思って頂けるような本をご紹介していきます。

 今月お届けするのは、著者の体験を綴った『マラソン中毒者(ジャンキー) 北極、南極、砂漠マラソン世界一のビジネスマン』。さっそく、その見どころを見ていきましょう。

著者の小野さんはどんな人?

 著者である小野裕史さんは、ベンチャーキャピタルインフィニティ・ベンチャーズLLPを立ちあげ、共同代表を務めるビジネスマン。世界を舞台に活躍し、多忙な日々を過ごされています。そんな小野さんがランニングを始め、やがてアタカマ砂漠で行われた250kmのステージレースで世界一を獲得するまでの軌跡。本著には小野さん本人の言葉で、その体験談が赤裸々に綴られています。

「どうせ、元アスリートとかなんでしょ?」

 おそらく、そう思われた方は多いでしょう。しかし小野さんは、もともとインターネットやゲームが好きなインドア派。さらに学生時代も運動経験がなく、ランニングを始めた当時は“太っていた”というから驚きです。

 私は陸上競技歴こそあるものの、同じくマラソンを始めたときは今より20kgほど太っていました。きっと皆さんの中にも、ダイエット目的で走り始めたなど、似たような境遇の方は多いはず。だからこそ本著に綴られているストーリーは、私たちにとっても「ありえないこと」ではありません。もちろんたゆまぬ努力や強い意思は必要ですが、誰にでも起こり得る、実現し得ることと言えるでしょう。

 ビジネスマンで、運動経験がなくて、もともと太っていた。そう聞くだけで親近感が湧いてくる方も、おそらく少なくないはずです。

チャレンジの連続に引き込まれる

 本著で綴られたストーリーは、ちょっと“普通ではない”かもしれません。これまで小野さんが走ってきたレースは、たとえベテランの市民ランナーでも走破したことのある方は少ないでしょう。北極でフルマラソンを走ったり、南極でウルトラマラソンを走ったり。もちろん、砂漠マラソンで世界一を目指そうなんていうことは、そもそも思いつきさえしない方がほとんどのはずです。

 仕事や運動経験などの境遇は、私たちとさほど変わらない。しかし、私たちは想像すらしないような常人離れしたチャレンジを続けている。だからこそ本著を読み進めていくと、

「どうして、この人はこんなことができるんだ?」
「いったい、次はどんなチャレンジが起きるんだ?」

 など、どんどんその世界観に引き込まれていくことでしょう。それは、もしかしたら本著を通じて、小野さんの生き様やチャレンジ精神に“憧れ”を抱いてしまうからかもしれません。

一歩踏み出すためのキッカケに

 どんどん目標を見つけ、そして努力の末に走破していく小野さん。そのスケールこそ圧倒されてしまいますが、「何かにチャレンジする」姿勢は共感できるものが多いでしょう。北極マラソンを走るのも、人生初のフルマラソンを走るのも同じ。本人にとっては、これまで経験したことのない大きなチャレンジなのです。

「自分にも、何かできるかもしれない」
「スポーツって、自分の世界を変えてくれるかもしれない」

 そんな内に秘めた気持ちを、本書は呼び起こしてくれるような気がします。

 実際に読み終えてみると、心の中に熱いものがこみ上げてくるかのように感じました。「運動しようと思いつつキッカケがない」「いつか挑戦したい大会があるけど、一歩踏み出せない」といった方なら、本著がその背中を推してくれるのではないでしょうか。

 本書は文章がくだけていて読みやすく、堅苦しさがありません。あまり本を読む習慣がないという方でも、自然と読み進められることでしょう。自分自身を奮起させる起爆剤として、ぜひ手にとってみてください。

あわせて読みたい:運動経験ゼロだった投資家・小野裕史。砂漠マラソン世界一を経て、“馬のマラソン”で五輪を目指すワケ(前編)

[筆者プロフィール]
三河賢文(みかわ・まさふみ)
“走る”フリーライターとして、スポーツ分野を中心とした取材・執筆・編集を実施。自身もマラソンやトライアスロン競技に取り組むほか、学生時代の競技経験を活かし、中学校の陸上部で技術指導も担う。また、ランニングクラブ&レッスンサービス『WILD MOVE』を主宰し、子ども向けの運動教室やランナー向けのパーソナルトレーニングなども行っている。4児の子持ち。ナレッジ・リンクス(株)代表
【HP】https://www.run-writer.com

<Text:三河賢文/Illustration:Getty Images>