インタビュー
2018年8月9日

立場は違えど目標は一つ。たくさんの人に祝福されてスタートラインに立ちたい。マラソン道下美里×ガイドランナー河口恵(後編)│わたしと相棒〜パラアスリートのTOKYO2020〜 (1/3)

 東京2020パラリンピックを目指すアスリートの傍らには、彼ら彼女らをサポートするヒト・モノの存在がある。双方が合わさって生まれるものとは何か。連載「わたしと相棒〜パラアスリートのTOKYO2020〜」では、両者の対話を通してパラスポーツのリアリティを探る。

 視覚障がい者女子マラソンのトップ選手、道下美里選手(三井住友海上所属/T12/視覚障がいクラス)は、リオで獲得できなかったパラリンピックチャンピオンを目指し、2020年向けて研鑽を積んでいる。

 道下選手をサポートする人々で構成される『チーム道下』の一員であるガイドランナーとして、そして会社の同僚として、彼女と多くの時間を共に過ごす河口恵さんも、同じ方向を見て走る。伴走中のコミュニケーションから、目下の強化ポイント、そして2年後への思いについて聞いた。

シンプルなコミュニケーションでレースを構築、微調整

――河口さんは、ガイドランナーとして道下さんに声を掛ける時に、どのようなことを意識したり、工夫していますか。

河口:ハードな練習では気持ちの面で沈んでくる時もあるので、「頑張るぞ」という声掛けをしたりとか、やはり、足元が安全かをしっかり見たり、細かい声掛けを意識するようになりましたね。

――ところで、ペースのコントロールとか、給水時は、お互いにどのようにコミュニケーションを取っているのでしょうか?

道下:ペース配分についてはレース前に大体の目安を決めてしまいます。例えば、30㎞までは1㎞を4分15秒ペースで行く。その後、どこから切り替えていくか、といった私のイメージをまずガイドランナーに伝えるんですね。スタートしてからは、目標に対して、1㎞の通過タイムが何秒か、などを確認しながらレースを進めます。

私は基本的にレース中は喋りません。ペースについては、ガイドランナーの方から、私の欲しい情報を伝えてもらいます。例えば最初の1~2㎞までは、1㎞ごとのタイムが知りたいとか、5㎞を過ぎてからは5㎞ごとのラップが知りたいとか。ガイドランナーが“ペースコントロール”をしているわけではなくて、レース自体は自分自身で組み立てているんです。

――例えば、リオパラリンピックの時は、前半はエネルギーを温存する、というプランがあったとも見聞きしましたが、まずは道下さんがレースプランを立てて、前後半のガイドに事前に伝えておくということですか?
(※視覚障がい者のマラソンでは、ガイドランナーは10㎞、20㎞、30㎞のいずれかの地点で1度だけ交代できる)

道下:「私はこれぐらいのペースで走りたい」ということは伝えます。加えて、実際のコースや、選手データを分析しながら、今のトレーニング状況で、どんな走りができるかをチームで話し合います。当日のコンディションは自分にしか分からないので、最終的にはそれも踏まえて、「何分、何秒で行きます」とガイドランナーに伝えてからスタートする、という流れでしょうか。

ただ、実際のレースでは、ペースの変動もあるし、当初考えていたペース通りに必ず走れるとは限りません。身体が予想以上に良く動くという場合もあります。例えば1キロ4分15秒のペースで走りたくても、予定通り進んでいない時は、ガイドランナーに速いか、遅いかを「プラス、マイナス」で表現してもらいます。例えば、「4分17秒。マイナス2!」とか、そんな感じ。そこで、ペースアップするか、余裕がなければそのまま押して行きます。その時は、「ガイドの方は空気読んでね」っていう感じですね(笑)。

それくらい阿吽の呼吸、信頼関係を作ってレースに臨むんです。給水は伴走者が取ってくれます。私が事前に何キロ毎に給水をしたいかを伝え、「給水取ります!」と言ってもらって、「右手出して!」、パって取って、給水して、パッと返す、みたいな感じです。

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