2020年3月3日

いかに効率よく、快適に走るか。ランニングを多角的に分析する「ランニング・サイエンス」│スポーツがしたくなる今月の1冊

 健康な人であれば、誰でも走ることができます。そのスピードや距離は人によって異なりますが、「なぜ人は走れるのか?」などと考えたことのある方は、専門家を除いて少ないでしょう。一方で、指導の場には最先端ITによって取得したデータ情報が用いられるなど、科学的視点から“走り”について考えられるシーンが増えてきました。

 いずれ市民ランナーも、自分自身の走りを細かに分析し、論理に基づいてトレーニングに取り組むことが普通になるかもしれません。そこで今回は、ランニングを少し学問的に捉え、学ぶことのできる書籍「ランニング・サイエンス」をご紹介します。

ランニングをさまざまな視点から分析・解説する

 おそらく市民ランナーの中にも、日々のトレーニングを工夫したり、ランニングフォームの改善に取り組んだりしている方は多いでしょう。パーソナルレッスンを受ける、あるいはスクールに通うといった姿も少なくありません。私も指導する側に立つことがありますが、皆さん強い向上心を持っていることが伝わってきます。

「もっとランニングについて知りたい」

 そういう思いを持たれている方なら、本書は一気読みしてしまうほどおもしろく感じられることでしょう。通常、ランニングを考える際に着目するのは、走っているランナー自身の身体です。筋力や筋持久力、心肺機能、柔軟性など、何を改善すべきなのかを考え、トレーニングなどに繋げていきます。本書でも、そうした自体の動き(=走り)について当然ながら触れられています。ランニングに適した呼吸法、ランニング・エコノミーを考えた効率的な走り方、あるいは怪我の予防など。これだけでも、多くの発見や気づきが得られるはずです。

 しかし特徴的なのは、本書がランニングについて身体機能以外のテーマにも深く触れているという点です。分かりやすいところでは、食事や水分補給などイメージしやすいかもしれません。これらは関連書籍も多く出版されていますし、わりと身近な情報のはずです。

 では、心理的要因や空気抵抗、走りと路面状態との関係となればいかがでしょうか。あるいはランニングウェアやシューズを選ぶ際、単純な履き心地だけでなく、自分自身に与えてくれる効果について考えたことがある方は、どれだけいるでしょう。本書はそうした思いもよらない視点から、走るとはどういうことなのか、どうすれば快適に走ることができるのかを分析・解説しています。

分かりやすい図解で難しさを感じない

 “サイエンス”という書籍名から、論文のように難解な内容をイメージされる方がいるかもしれません。たしかに本書で扱うテーマは容易なものではなく、いわば学問としての読みものといっても過言ではないでしょう。しかし、本書は各テーマの内容を解説・補足するイラストがたくさん用いられています。たとえば着地位置について言及するなら、地面に設置する足の着地状態をイラストでも解説しています。呼吸方法に関する内容なら、肺や横隔膜の形状・位置、あるいは呼吸の流れなどを描くといった具合です。そのため、もし一度読んで理解できない点があっても、イラストと照らし合わせながら2〜3回読めば、すっと自身の知識として頭に入ってくれるはずです。

 ちなみに本書ではイラスト以外にも、国内外のトップアスリートが写真で登場します。その眼差しや力強いランニングフォームを見るだけで、きっとやる気がみなぎってくるのではないでしょうか。

「もっと速くなりたい」
「もっといい走りがしたい」

 人それぞれ目的は異なりますが、本書によって得られる知識は、ランナーの走りを自ら変えるうえでとても有益なものになると感じます。もちろん、中には既知の情報が含まれているかもしれません。しかし分かりやすい分析と解説は、その情報を確認すると共に、さらに深掘りして知識を定着させる助けとなるでしょう。ランニングについて、知的好奇心を満たしてくれる1冊です。

[筆者プロフィール]
三河賢文(みかわ・まさふみ)
“走る”フリーライターとして、スポーツ分野を中心とした取材・執筆・編集を実施。自身もマラソンやトライアスロン競技に取り組むほか、学生時代の競技経験を活かし、中学校の陸上部で技術指導も担う。また、ランニングクラブ&レッスンサービス『WILD MOVE』を主宰し、子ども向けの運動教室やランナー向けのパーソナルトレーニングなども行っている。4児の子持ち。ナレッジ・リンクス(株)代表
【HP】https://www.run-writer.com

<Text:三河賢文/Photo:Getty Images>