インタビュー
2019年8月17日

リリー・フランキー「田畑政治のように何かをめちゃくちゃ好きなやつって、見ていて気持ちが良いんですよね。好きなものがある人って良い」│『いだてん』インタビュー (1/4)

 日本人初のオリンピアンとなった金栗四三と、1964年の東京オリンピック招致に尽力した田畑政治を描いた、宮藤官九郎さん脚本によるNHKの大河ドラマ『いだてん ~東京オリムピック噺(ばなし)~』。

 田畑政治(演:阿部サダヲ)の良き理解者として、存在感を放っているのが新聞社の上司、緒方竹虎。硬軟を併せ持った、この難しい役を演じるのはリリー・フランキーさん。朝日新聞社政治部長であり、後に大出世を果たしていく緒方竹虎を、どのような心境で演じているのでしょうか。都内で、リリーさんを囲んだ合同インタビューが行われました。

《関連記事》
●阿部サダヲ『いだてん』ロングインタビュー「暗くなりがちな時代だからこそ、スポーツを通して明るくなってほしい」 
●菅原小春×大根仁『いだてん』インタビュー。日本女子スポーツのパイオニア・人見絹枝をいかにして演じたのか 
●皆川猿時が語る、盟友・阿部サダヲ&宮藤官九郎へのリスペクト、過酷だった減量20キロ│『いだてん』インタビュー 
●トータス松本×いだてん。現場で起こるセッションでいかに自分を表現するか:インタビュー前編
●上白石萌歌×いだてん。日本女子初の金メダリスト前畑秀子を演じる覚悟と決意:インタビュー前編

[プロフィール]
●リリー・フランキー
1963年生まれ、福岡県出身。イラスト、デザイン、文筆、写真、作詞・作曲、俳優など、多分野で活動。2005年、絵本『おでんくん』がアニメ化。初の長編小説『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』が2006年に本屋大賞を受賞し、220万部を超えるベストセラーに。俳優として、映画『ぐるりのこと。』でブルーリボン賞新人賞を受賞。また、『凶悪』(2013年、監督:白石和彌)、『そして父になる』(2013年、監督:是枝裕和)では、第37回(2013年度)日本アカデミー賞で、最優秀助演男優賞(『そして父になる』)、優秀助演男優賞(『凶悪』)をそれぞれ受賞。第40回(2016年度)日本アカデミー賞では、『SCOOP!』(2016年、監督:大根仁)で優秀助演男優賞を受賞。第42回(2018年度)日本アカデミー賞では、『万引き家族』(2018年、監督:是枝裕和)で優秀主演男優賞を受賞。そのほかにも数々の受賞歴がある。連続テレビ小説『なつぞら』(NHK)にも出演中。

●緒方竹虎(おがた・たけとら)
ひょうひょうとしながらも的確な判断力と信念を持つ政治記者。新人時代に「大正」の新元号をスクープしたことでも知られる。猪突猛進でスクープのとれない田畑をなぜか可愛がり、水泳指導者と記者の“二足のわらじ”の良き理解者でもある。主筆・副社長を務め、言論の自由と軍部の圧力のはざまで苦悩する。のちに政治家に転身し、副総理などを務める。

【あらすじ】第31回「トップ・オブ・ザ・ワールド」(8月18日放送)
1932年、田畑(阿部サダヲ)率いる日本競泳陣はロスオリンピックで大旋風を巻き起こす。200m平泳ぎの前畑秀子(上白石萌歌)も空前のメダルラッシュに続こうとするが決勝レースは大混戦に。IOC会長ラトゥールは日本水泳の大躍進の秘密に強く興味を持つ。治五郎(役所広司)はその答えを見せようと日本泳法のエキシビジョンを思いつく。中学生のときに病気で競技をやめた田畑も、それ以来の水泳に挑戦することになる。

田畑さんを演じる阿部さんは珍しい動物のよう

―― 田畑の将来を見込み、可愛がっています。田畑は、どのようなところが魅力なのでしょうか。

あれだけ猫可愛がりしていますが、その理由は台本では何も説明されていないんです。最初は、どちらかと言うと緒方さんは、田畑のことを入社試験で落とそうとしていたくらい。当時の社長が「顔が良いからとってやれ」と言ったんですね。

いまの常識で考えたら、新聞社の社員として田畑は不適合かも知れないけれど、でも当時の新聞社って、ああいう人たちの集まりだったのかも知れない。山師の集まりというか。きっと田畑のような破天荒な人が集まっていたんでしょう。

緒方さんからすれば、新しいタイプの”はちゃめちゃなやつ”ってことで、活きが良く見えたのかな。新しい時代を作ってくれそうに思ったのではないでしょうか。

―― 撮影で、印象深かったエピソードは。

阿部さんが動いているワンカット、ワンカットがもう印象的です。阿部さんを見ているのが楽しい。珍しい動物を見ているような感覚。かわいらしい存在感から出るめちゃくちゃなエネルギーというか。

―― ドラマでも、兄のような目線で見ています。

もうね、兄的な目線で見ないと、緒方さんの田畑に対する気持ちの置きどころが見つからないんです(笑)。よくよく考えたら、田畑は新聞社にとって何も貢献していない。でも、この先かなり優遇されて出世もしていく。だから、かわいがられているから、と頭で処理しないと「何でコイツはいるのかな」となってしまうと思うんですよね(笑)。

田畑は時代を進めた人でもある

―― 田畑さんの頭の中は、水泳のことばかり。緒方さんはどう見ているのでしょう。

入社試験の頃から水泳の話ばかりしていました。当時の新聞は運動に対して、何も思いを持っていなかった。持っていたとしてもひとつの事象として捉えるのみでした。しかし田畑のように、少し過剰ですがスポーツをエンタメとして考えられるようになったおかげで、新聞の購買者層も変わったでしょうし、販売部数も増えたんでしょう。当時、人々はどのくらいスポーツに熱中していたのかは謎ですが、マスメディアがスポーツを取り上げることで部数が伸びるぞ、と気が付いた。そこでオリンピックに対しても色気を出していく感じで。

もしかしたら、田畑のような人がいなければ、日本はもっといろんな面が遅れていたのかも知れません。何かをめちゃくちゃ好きなやつって、傍から見ていて気持ちが良いんですよね。好きなものがある人って良い。

今回の大河ドラマは、これまでのような戦国時代の話ではありません。本当に近代の話です。戦国時代の話だったら、戦を描いたにしても昔の話すぎる。だから、そんなに血生臭くなく感じる。むしろ、戦なのにどこかエンタメ感すらあるじゃないですか。でも、『いだてん』は近代の話。戦争の話になったりすると、1人の人が死ぬと、セリフとしてもずっと重くなる。どんどん暗い、戦争に向かう日本にありつつも、人々は娯楽をつくっていった。田畑はそこの部分が大きいんだと思います。

―― 田畑は、メダル至上主義の人だったのでしょうか。

あの時代は国を鼓舞するものとして、メディアの人間はそう考えたかもしれない。でも、一般人の受け止めはどうだったんでしょう。ウサを晴らしたい国などもあって、そういった側面で代理戦争になっていた部分もあったのかもしれませんが、そうした中で、人見絹枝さん(演:菅原小春)が出てきた。第26回(明日なき暴走)は感動しましたね。それまで、女性はオリンピックに出られない時代だった。そこから女性が進出していく。差別、偏見を受けながらも勝ち取っていきました。「こっちの国の方が、メダルをたくさん獲った」というよりも、1人ひとりの歴史によって人の自由が広がっていくというところに興味があります。

1 2 3 4