2022年11月21日

サッカーの起源? やんごとなき方々も夢中になった「蹴鞠(けまり)」【スポーツ今昔物語】

かつて生まれたスポーツが、現代ではどう楽しまれているのか。かつての人々がどんなスポーツをどう楽しんでいたのか。

その歴史を紐解き、人々との関わりや与えた影響について紹介していく連載「スポーツ今昔物語」。今回は時代劇でもおなじみ「蹴鞠(けまり)」です。

平安時代に大流行、貴族たちだけでなく民衆も楽しんだスポーツ

蹴鞠とは

蹴鞠とは、8名または6名ひとグループとなり、鹿皮製の鞠を地面に落とさないように蹴り合い、その回数を競うシンプルなもの。

1人あたり3回以上蹴ってから次の人に鞠を回すこと、基準となる四方に植えた一丈五尺(約4.5m)の樹木の高さまで鞠を蹴り上げることなどのルール、蹴るときにポーンと抜ける音がするとなおよろしいなどの決まりはあった様子。

蹴鞠はいつ日本に入ってきた?

日本においての蹴鞠は、今から約1400年前の飛鳥奈良時代、仏教など最新の文化として中国から伝わったと言われます。

平安時代には宮廷競技として、のち中世にかけては武家や神官、一般の民衆に至るまで広く親しまれていたようです。

当時も蹴鞠プレーヤーのスターがいた!?

当時の蹴鞠にも、現代スポーツにおけるスター選手のような、ずば抜けた実力を持つ達人級のプレーヤーがいたといわれています。

第一人者は「藤原成道」です。彼は後世まで「蹴聖(しゅうせい)」と呼ばれ、長く手本とされたそうです。また、公家の難波家(なんばけ)・飛鳥井家(あすかいけ)・御子左家(みこひだりけ)などは、蹴鞠を家業とし、それぞれ難波流・飛鳥井流・御子左流という流派を持っていました。

中でも飛鳥井家は代々流派を受け継ぎ、屋敷跡である白峯神宮(京都府京都市上京区)では、精大明神(せいだいみょうじん)という球技・スポーツ芸能の神様が奉られています。

なお、現在でも白峯神宮では、毎年4月14日と7月7日の年2回、「蹴鞠奉納」が行われており、多くの方が観覧に訪れるようです。

発祥地・中国では軍事訓練のひとつ、一説ではサッカーの起源とも

日本における蹴鞠は、心身強健や五穀豊穣、天下泰平など、平和を祈願するための催しとしても広く認識されていました。

しかし、蹴鞠の発祥地とされている中国においては、発生当初の紀元前300年以上前の戦国時代であり、兵士の体力作りの一環の軍事訓練として、主に馬に乗らない時の訓練として用いられていたといわれています。

それが漢の時代になると遊戯に変わり、12人ひとチームとして小さなゴールに玉を蹴り入れる、現在のサッカーに似た競技として親しまれるように変化していったそうです。

国ごとに楽しみ方や目的は違えども、誰もが熱中するスポーツだった点に変わりはないということでしょう。

中世まで盛んであった中国の蹴鞠は、その競技スタイルが現代のサッカーに近いことから「サッカーの起源」とも言われています。

FIFAの公式サイトでも、もっとも古い形態のサッカーとして取り上げられていますが、サッカーの起源については諸説あり、現代でもたびたび論争が起きるほどです。

蹴鞠は今でも楽しめる? 我が国の伝統文化として残る蹴鞠

大河ドラマ『おんな城主 直虎』(NHK)では、物語前半の支配者である今川家のシーンに蹴鞠上手で有名であった今川氏真(尾上松也)のエピソードがしばしば登場し、平和な時間での遊戯を楽しんでいる様子が生き生きと描かれています。

中国では清の時代に廃れてしまった蹴鞠ですが、日本では戦国時代はもちろん、江戸時代には女性たちにも流行し、現代でも白峯神宮をはじめとする全5カ所の神社で年中行事として当時の形態のまま遊戯するさまを一般公開にて観覧することができます。

興味がある方は一度足を運んでみてはいかがでしょうか。

蹴鞠の年間行事
●1月4日 【下鴨神社】蹴鞠はじめ
http://www.shimogamo-jinja.or.jp 

●4月14日【白峯神宮】春季例大祭 淳仁天皇祭
http://shiraminejingu.or.jp

●6月15日【藤森神社】紫陽花祭り
http://www.fujinomorijinjya.or.jp

●7月7日【白峯神宮】精大明神例祭「七夕祭」
http://shiraminejingu.or.jp

●8月【平野神社】夏祭り(※開催日は未定)
http://www.hiranojinja.com

●春・秋【談山神社】けまり祭り(※詳細・お申し込みは神社へ問い合わせ)
http://www.tanzan.or.jp

※上記祭典日、内容は都合によって変更されることがあります

《参考文献》
池 修 著「日本の蹴鞠」光村推古書院 
渡辺 融 桑山浩然 著「蹴鞠の研究 公家鞠の成立」東京大学出版会

<Text:アート・サプライ>