2020年5月19日

生きている限り消えないサーフィン魂。『ビッグ・ウェンズデー』|スポシネ:観たらスポーツしたくなる映画

 1978年に公開されたアメリカ映画『ビッグ・ウェンズデー』は、サーフィン映画の代表作として語られ、公開から約40年を経た今でもその輝きを失わない名作です。

今回紹介する映画『ビッグ・ウェンズデー』の見どころ

 ビッグ・ウェンズデーとは10年に一度、水曜日にやってくる伝説の大波のこと。

 この作品で描かれるサーファーたちは、イケメンで品行方正な爽やかなスポーツマン! とはほど遠い若者たち。冒頭から主人公のマット、ジャック、リロイの3人は、朝まで飲んだくれていたのであろうだらしな〜い姿で浜にサーフィンにやってくる。人のサーフボードをムリクリ奪って波に乗る。全然、カッコよくない。

 彼らの日常は、酒とケンカと女に明け暮れる日々。若さゆえの暴走、若さゆえのバカ騒ぎ。青春の1コマなのかもしれないけど、あきれるばかり。

 それでもところどころに盛り込まれる彼らが波に乗る姿は、この映画が日本においてもサーフィン・ブームの火付け役となったのも頷けるほどカッコイイ! 程よく筋肉がついたスレンダーなカラダと割れた腹筋の美しさ。

 3人は地元では有名なサーファーで、中でもマットはキングとまで呼ばれる男。同じ波に乗って抜きつ抜かれつするゴービハインドなんてハイテクニックな技も披露しちゃったりして、理屈抜きにカッコイイのだ。

バカをやっててもスポーツマンってカッコイイ!

 観客は彼らのこのギャップをカッコイイと思う。バカやってても、だらしないダメダメ男でも、サーフィンはビシッとキメる。やっぱりスポーツマンはカッコイイ。クヤシイけど。

苦悩しても挫折しても消えないもの

 サーファーとして崇拝されたマット、ジャック、リロイを中心に、彼らを取り巻く恋人や友人、サーフィンの師匠などといった人々を絡めながら、1962年夏から1974年春までを映画は綴る。

 物語の中盤にはベトナム戦争が描かれ、サーファーたちにも召集令状が届く。徴兵を逃れようとする者、自ら志願して出兵する者。青春を謳歌していた彼らの時間は終わりを告げ、今度はそれぞれの人生の荒波と格闘することに。マットが1人、傾く光の中波に乗るシーンでこんなナレーションが流れる。

「浜や岩や波は変わらない。人が変わる。結婚したり、陸に上がったり、ポイントを変えたり。死んだ者も」

 人は誰しも大人になり、何かを諦め、受け入れ、成長してゆかなければならない時を迎える。かつての仲間とはバラバラになり、連絡さえとれない。それでも彼らは待っている。未だ乗り得ていない伝説の大波“ビッグ・ウェンズデー”を。

人生を輝かせてくれるスポーツのチカラ

 妻と娘と平凡に暮らし、ときどきは波に乗る生活を送るかつてのキング、マット。そして、遂にその時はやってくる。1974年、春。ビッグ・ウェンズデー。

 ジャックともリロイとも連絡がつかないまま1人、昔、仲間たちとサーフィンをした浜へと向かうマット。今までの人生で見たこともない大波が打ち寄せる彼らのサーフポイント。しかしそこには、ジャックとリロイが待っていた。

 輝いていたあの日々と同じ表情でボードに乗り、伝説の大波の海へと漕ぎ出して行く3人。そして、ビッグ・ウェンズデーに挑む。

 映画最大の見せ場のこのクライマックスシーンで、人生の輝くキラキラした瞬間をくれるスポーツのチカラにむちゃくちゃ圧倒される。今とは違い、特撮もCGもない時代に、これだけ迫力あるサーフシーンを撮影したクルーの情熱も圧巻だ。

 伝説の大波は無理だとしても、サーフィンをやってみたい、キラキラする瞬間を味わってみたいと思わずにはいられない。サーフィンと3人の若者たちのドラマを通じ、人生を賭けて情熱を持ち続けることのできるスポーツ=キラキラしたものを、何幾つからでも見つけてみたいと思う。ココロの中で熱いものがフツフツと湧いてくる、静かなる興奮度120%の映画だ。

『ビッグ・ウェンズデー』
DVD ¥1,429 +税
ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
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<Text:京澤洋子(アート・サプライ)>