インタビュー
2017年5月24日

実はラン歴30年&元サブスリー。千田健さんに聞く「仮装ランニング」の美学

 ランニングブームの到来以降、マラソンの楽しみ方も多様化してきました。記録更新を目指すシリアスランナーはもちろん、思い思いの服装で走る“仮装ランナー”を見かけたことのある方は多いことでしょう。中には仮装禁止とする大会もありますが、逆に最近では「仮装賞」を設ける大会も増えており、開催地では仮装ランナーを見るのが楽しみという方もいらっしゃるようです。

 今回は数多くの仮装ランナーの中でも、各大会でいくつもの仮装賞を獲得する千田健(ちだ・たけし)さんにお話を伺いました。ちょうど5月21日に、千田さんが住む岩手県奥州市で「いわて奥州きらめきマラソン」が開催。実際の仮装姿も見ることができましたので、その模様と合わせて紹介します。

仮装界のレジェンドは元サブスリーランナー

 「いわて奥州きらめきマラソン」の会場へ赴くと、さっそく千田さんを発見。スタートに向けて着々と準備するランナーの中、ひときわ目立つ仮装姿で待機しています。

 これからフルマラソンを走るとは思えない重装備ですが、これが千田さんにとっては“いつも通り”の状態。「本当に走れるのだろうか」と不安さえ感じますが、なにもリタイア覚悟で仮装しているわけではありません。千田さんには、それでもなお走りきれるだけの走力と実績がありました。

「今は64歳ですが、ランニング歴は30年になります。ランニングを始めたキッカケは会社の陸上部に所属したことですが、そのため、当初は記録更新が目的でした。フルマラソンの自己ベストは、2時間53分21秒です」

 なんと、千田さんはフルマラソンを3時間以内で走るサブスリーランナー!それならば、これだけの重装備で完走できるのも頷けます。

 そんな千田さんが初めて仮装したのは、国外での大会でした。それは2008年の「韓国慶州さくらマラソン」でのこと。韓国駐在時、現地スタッフから「仮装ランを見たい」と言われ、バットマンの仮装で走ったそうです。

 ちなみに、現在はすべて自作で仮装コスチュームを作られている千田さんですが、バットマンは通販で購入した既製品でした。初めて仮装ランニングを体験した千田さんは、当時の感想を「とにかく声援が凄くて、とても楽しかったですね」と話します。この経験をキッカケに、千田さんは仮装ランニングの世界にハマっていくことになったのでした。

千田さん流!仮装ランニングの楽しみ方

 最初は、周囲からの声援がうれしかったという千田さん。しかし仮装コスチュームを手作りするようになると、今度はその制作が面白くなり、すっかりハマってしまったと言います。

「今では走ることより、むしろ仮装コスチュームの制作がメインですね。マラソン大会は、その発表の場という感じになっています。制作はまるでプラモ作りのように楽しいですし、そのコスチュームを着て大会に出れば、何千、何万人という方に自分の作品を見てもらえます。これって、最高ですよね」

 これまで全34体もの仮装コスチュームを制作されている千田さん。製作期間について伺うと、取材時に着用されていた『バルタン星人』は2ヶ月、さらに一番のお気に入りだという『ゴジラ』は構想に1年、制作に半年をかけたと言います。そんな千田さんに、仮装コスチュームの制作についてポイントを伺ってみました。

「それを着て走るわけですから、通風と走りやすさ、そして給水が大切ですね。また、仮装していることで、周りの人々に迷惑を掛けないことも忘れてはいけません。仮装するなら、できるだけ動きやすい余裕を持ったコスチュームで。既製品でも良いとは思いますが、できれば自作するとさらに楽しいですよ」

 仮装すると、当然ながら動きにくくなります。加えて視界が狭くなるなど、ランニングウェアに比べると制限される部分が多いでしょう。だからといって、周囲の迷惑になってはいけない。自分が楽しむことはもちろんですが、同時に周りを楽しくさせることこそ、千田さんなりの仮装ポリシーなのかもしれません。

仮装することでこそ得られた縁と機会

 「類は友を呼ぶ」と言いますが、千田さんもまた、仮装ランニングを始めたことで新たな人々との繋がりができたとのこと。その代表的なものが、主にFacebookを通じて交流する仮装ランニング・グループの「シャア専用」です。取材させてもらった「いわて奥州きらめきマラソン」にも、千田さんの周りには同グループの仲間が大勢集まっていました。

「そもそもは別の方が設立したグループなのですが、私は3年前に入り、管理する立場になりました。その活動は、とにかく『仮装ランを楽しもう』ということだけ。それぞれ各地の大会に出場しては、自慢の仮装で楽しみながら走っています。あとは、たまに飲み会を開催する程度ですね」

 走ること、そして仮装することで繋がった仲間との縁。頻繁に顔を合わせることはなくても、マラソン大会に出場すると誰かしらに会うことができる。まるでマラソン大会が、同窓会のような機会になっているのではないでしょうか。

 2年前にゴジラの仮装で出場した「小布施見にマラソン」では、テレビ局から取材を受けたことも。そして今回の「いわて奥州きらめきマラソン」は地元ということもあり、新聞やFMラジオ、テレビ……と、あらゆるメディアに取り上げられていました。記録更新を狙って競技に取り組んでいた頃では得られない、さまざまな縁や機会に恵まれているようです。

「仮装ランニングは周りを楽しませながら、自分自身も楽しめる究極の趣味です!」

 果たして次は、いったいどんなコスチュームで大会に出場するのか。話を伺っているだけで、千田さんの今後の仮装が楽しみになってきました。「仮装してみようかな」と興味を持った方は、マラソンの新しい楽しみ方が見つかるかもしれませんよ。

[筆者プロフィール]
三河 賢文(みかわ・まさふみ)
“走る”フリーライターとして、スポーツ分野を中心に取材・執筆・編集。自身もマラソンやトライアスロン競技に取り組むほか、学生時代の競技経験を活かし、中学校の陸上部で技術指導も担う。またトレーニングサービス『WILD MOVE』を主宰し、子ども向けの運動教室、ランナー向けのパーソナルトレーニングなども行っている。3児の子持ち。ナレッジ・リンクス(株)代表
【HP】http://www.run-writer.com

<Text&Photo:三河賢文>